今回、ロードバイクのメンテナンスの一環としてペダル”PD-5700”の分解、クリスアップをしてみました。
2011年購入の完成車に付属のペダルになります。
ペダルの分解、グリスアップは初めてですがが、今使っているものを少しでも長く使いたいとの思いからやって見ることにしました。
実際にやってみて気付いた注意点などを記載していますので参考にしていただけたら幸いです。
*今回、分解グリスアップをしたのはシマノ PDー5700(105グレード)です。そのほかのペダルとは一部共通点があるかも知れませんが違う点もあると思いますのでご注意ください。
使用した工具など
使用した工具は以下の通りです。
①軸ユニット取り外し専用工具 TL-PD40(シマノ)
②クロウフット パークツール TWB-36 (差込角9.5mm)
③ラチェットハンドル (差込角 9.5mm)
④15mmスパナ
⑤7mmスパナ
⑥10mm薄型スパナ
⑦6mm六角レンチ
⑧7mm 六角ソケット
⑨トルクレンチ (シグナル式プレセット型:測定範囲 3Nm~15Nm)
⑩トルクレンチ (直読式プレート型:測定範囲 0~14Nm)*上のトルクレンチが逆ねじ不可のため使用
ペダルを外す
一般的に”右ペダルは右ねじ(正ねじ)”、”左ペダルは左ねじ(逆ねじ)”と覚えておくとよいといわれています。
なので、右ペダルは軸を左回転させて外し、左ペダルは軸を右回転させて外すことになります。
この解釈を間違えるとペダルが外れないどころか、余計に締め付けてしまうことになるので注意して下さい。
”右ペダルは右ねじ(右に回すと締まるねじ)”
”左ペダルは左ねじ(左に回すと締まるねじ)”
上の写真の様に、このペダル(PD-5700)の場合、軸部分の幅が広いのでペダルレンチでなくとも一般的な15mmのスパナで外せます。
クランクの内側から6mmの六角レンチでも外せそうですが、取扱説明書を見るとペダルを取り付けるとき6mmの六角レンチでは充分な締付トルクが確保できないため、15mmのスパナを使用する旨の事が書かれています。
したがって、外すときも15mmのスパナを使用するほうが無難だと思われます(6mmの六角レンチだと滑ることがあるかも知れません)。
ペダルの分解
ペダルから軸ユニットを外すには、専用工具の”TL-PD40”が必要です。
”TL-PD40”をロックブッシュに嵌め、スパナもしくはモンキーレンチで外しますが、ここの二面幅が36mmあります。
36mmのスパナや36mmまで開くモンキーレンチを購入するより、以下の商品の方が便利だと思い購入しました。
差込角は9.5mm(3/8インチ)なので、同じ差込角のハンドル(スピンナーハンドル、ラチェットハンドルなど)があればそのまま使うことが出来ます。
差込角が違う場合は変換アダプターで対応できますが、差込角が小さいハンドル(差込角6.35mm)にアダプターを使用する場合はハンドルへの負担が大きくなるので注意が必要です。
また、トルクレンチで使う場合は90度の角度にセットして使います(トルク換算せずに使うため)。詳しくは最後の”ペダルの組み立て”で説明します。
ロックブッシュも左右でねじの方向が違います。以下の通りです。
”右ペダルのロックブッシュは左ねじ”
”左ペダルのロックブッシュは右ねじ”
”右ペダル”を分解していきます。
TL-PD40をロックブッシュに嵌めます。
左ねじなので右回しでゆるめます。
ラチットレンチだと首を振ってやりにくいため、ある程度ゆるんだらクロウフットを直接手で持って回したほうがやりやすいです。
最初”カクッ”とゆるんだ後、数回転は軽く回り、その後回転がきつくなりますがそのまま回して問題ないです。
きつくなるのは”はめあい”が関係していると思います(個人の見解です)。
”はめあい”とは軸と穴の組み合わせのことで、ここではベアリング部の筒状のパーツとペダル内径部の組み合わせになります。
“はめあい”で検索すれば詳しい情報がすぐに見つかると思います。
完全にゆるめると”軸ユニット”が取り出せます(下の写真は汚れをある程度拭取った状態です)。
軸ユニットの分解
軸ユニットを分解していきます。
7mmスパナと10mm薄型スパナでロックナットをゆるます。10mm薄型スパナを使うのは普通のスパナでは厚みがあるため干渉して7mmスパナの掛かりが浅くなるためです。
ロックナットをゆるめると軸が一緒に回ってしまうため、10mmの薄型スパナを固定していても玉押しが締まる方向に少し回ってしまいますが特に問題はありませんでした。
それを避けるには、軸の六角穴(6mm)に六角レンチを入れて、六角レンチと7mmスパナでロックナットをゆるめるといいと思います。
*ロックナットのねじ部には青色のゆるみ止めと思われるものが塗布されています
なお、このロックナットは左右のペダルとも右ねじになっていました。
ロックナットは右ペダル、左ペダルとも右ねじ
*あくまでもこのペダルの場合です、下の写真を見ていただければわかると思います
ロックナットを取り出します。
玉押しを取り出します(上下の向きあり)。
*向きのあるものは写真を参考にしてください(これ以降も同様です)
*なるべく判りやすいよう汚れたグリスを拭取っています
玉押しを取り出すと、ボールが見えます。
ボールが入っている筒状のパーツ(カップアンドコーンのカップに相当するもの)を取り出します。
このときボールを無くさないよう注意が必要です。上側、下側それぞれ12個あります。
ボールを取り除いた状態です。
黒い樹脂パーツ(ブッシュ)を取り出します(上下の向きあり)。
ロックブッシュの上に乗っているリング状のパーツを取り出します(上下の向きあり)。
このパーツにボールの当たった形跡なく、恐らくグリスの受け皿のようなものではないかと思いますが、正解はわかりません。
ロックブッシュを軸から取り出します。
軸に入れてあるラバーシールを取り出します(上下の向きあり)。
以上で分解完了です。
分解の内容をまとめると以下の様になります。
軸ユニットの組み立て
ここからは軸ユニットの組み立てになります。
なお、グリスの量などは自分自身の個人の判断によるものですので、参考程度にお願します。
使用したグリスは”シマノ プレミアム グリス”です。
分解と逆の手順でラバーシール、ロックブッシュを軸に入れます。
軸とロックブッシュは摺れない(摺動部ではない)ので、その目的ではグリスは塗りませんでしたが、腐食防止の目的で軸側にごく薄くグリスを塗っておきました。
リング状のパーツを入れます。
このとき軸の矢印の部分(ボールが当たるところ)にグリスを塗布しておきます(注意:この写真には塗布されていません)。
ボールを12個のせます。
筒状のパーツにグリスを塗布し、ボールが見えなくなるところまで軽く押さえます。
このパーツはおそらく上下の向きはないと思いますが、同じ向きにしておきました(外周のツヤのない部分が”はめあい”部分だと思います)。
筒状のパーツの上側にもグリスを塗布します。
ボールを12個のせます。
玉押しのボールが当たる面にグリスを塗布し、ボールに触れるぐらいのところまで入れます(この後玉押し調整をするのでおよそのところまで入れておく)。
ロックナットを入れます(玉押しに触れる程度のところまで入れておく)。
玉押し調整前の組み立てはここまでです。
玉押し調整
玉押し調整も自分自身でやりながら考えたやり方なので、参考程度にお願いします。
次の3点の条件を満たす状態になるよう調整しました。
- 筒状のパーツを手で回して回転が渋くないこと
- 筒状のパーツを手で左右に動かしてガタがないこと
- 軸を上下に動かしてガタがないこと
なお玉押しの位置を決める際、玉押しを回しながらボールに当たる位置を探ることになると思いますが、このときちょうどいい位置(回転が渋くもなくガタもない位置)にしたつもりでもロックナットを締めると回転が渋くなってしまいます。
その原因は、雄ねじ(軸)と雌ねじ(玉押し)のねじ山のわずかな隙間が影響しているのだと思います(下図参照)。
ロックナットを締めると隙間の分だけ玉押しが動き、当たりがきつくなる。
なので、この①~③の確認はロックナットをある程度締めた状態で行います(最終の締め付けはトルクレンチで行います)。
うまく調整出来たと思ったらトルクレンチでロックナットを締め付けます。
このとき、10mm薄型スパナで玉押しを固定し、トルクレンチでロックナットを締めますが、同時に軸が回ってしまうため軸の六角穴に6mm六角レンチレンチを入れて回転しないようにするなどの工夫が必要です(下の写真の六角レンチはイラストです)。
トルクレンチでロックナットを締めた後も同様に①~③の確認をし、うまく調整出来ていなければもう一度調整し直し、出来るまでこれを繰り返します。
ロックナットの締め付けトルクは”6N・m”(5-7N・m)で行いましたが、参考値とさせていただきます。
理由は、現在(2023年4月)シマノ 技術情報サイト”si.shimano.com”で閲覧できるペダルのディーラーマニュアル(以下DM)には”PD-5700”は含まれておらず、他の類似のペダルの締め付けトルクを参考にしたためです(これ以降のDM情報も同様に類似ペダルの情報を参考にしています)。
*”ディーラーマニュアル”はユーザーマニュアルと異なり、自転車安全整備士などの専門知識のある方が使用するためのものですので、参考にされる場合は必ず自己責任で行ってください。無理な場合は購入店などにお願いしてください。
ペダルの組み立て
最後に軸ユニットをペダルに組み込みます。
ペダル内部に汚れたグリスが残っているので、洗浄しておきます。
DMによると”ペダルの奥にグリスを注入します”となっており、注入量は”ペダルを組込んだ時に溢れ出ない程度(約1.5g)”となっています。
ペダルの奥に届きそうなグリスガンも計量器もないので、軸ユニットを入れたときペダル奥の空間がグリスで満たされる程度を目安にロックナットの先端部にグリスを盛ることにしました。
また、固着防止の目的でロックブッシュに少量のグリスを塗布しました。
軸ユニットをペダル内部に入れ、下の写真の様に締めていきますが最後の締め付けはトルクレンチで行います。
軸ユニットの締め付けトルクはDM情報では”10-12N・m”となっています。
下のトルクレンチの場合、青色の針がプレートの10~12N・mの範囲になるところまでつまみを左に回します。
このときクロウフットを上の写真の様に90度の角度にしておきます。90度にすることでトルク換算せずに針の指示をそのまま締め付けトルク値として読むことが出来ます(メーカーホームページによると””ほぼトルク値の換算なしに使用可能”となっています)。
もし真っ直ぐにした場合は下の図のように支点が延長されるためトルク換算が必要です。
トルク換算は次の式で行います。
$$\normalsize\frac{a}{a+b}×{目標のトルク値}$$10N・mで締め付けたい場合、数値を入れると次のようになります。
$$\normalsize\frac{0.27}{0.27+0.04}×{10}={8.7N・m}$$となり、針の指示が8.7N・mの位置が実際の締め付けトルク10N・mの位置になります。
トルクレンチで締めた後、最終確認をしOKならば完成です。
左右のペダルとも完成したら、ペダル(PD-5700)のグリスアップ完了です。
おわりに
このメンテナンスで最も手こずったのは”玉押し調整”です。
何度もロックナットを締めたりゆるめたりを繰り返し、やっとの思いでベストな調整ができました。個人的には、かなりピンポイントな調整が必要だと感じました。
また、このメンテナンスを終えた数日後ふと思ったのですが、固定式ローラー台にバイクをセットした状態で作業したほうがやりやすいのではないかと思いました。
特にロックナットをゆるめるときと締めるときは、ペダルを取り付ける要領で軸ユニットをクランクに取り付けて行えばやりやすいのではないかと・・・。ローラー台にバイクをセットしておけばクランクが空転することもないのでその点でもいいのではないかと思います。
ただし、軸ユニットをクランクに取り付けたり外したりの作業が増えるのは面倒かも知れません。
今回は実際にこの方法は行っていないので本当にやりやすいのか、安全性に問題ないのかはわかりませんので次回に譲りたいと思います。